(A) of Hearts
『ひとつだけ忠告しておく。ヒロはアヤを手放せないよ』
「あの、」
『手放すことは絶対にないから』
「——芦沢は関係ありません」
『ふうん』
切ってしまおうか。
だけど言い切る前田さんの言葉も気になる。
『あ、そうだ。今度の日曜空けといて』
「へ……?」
『デートしよう』
「——あの、前田さま」
『前田敦哉(あつや)ね。きちんと名乗ってなかった気がする』
「名刺をいただいております」
『あれ。そうだっけ? なんか前田さまって堅苦しいから名前呼んでほしいんだけど』
「前田さまは、前田さまです」
『わかったよ。じゃ日曜10時ね』
「え……」
会話についていけないのですけれど。
朝からなんなの。
「あの、」
『デートしたら電話も最後にするよ』
「——ホントですか?」
『俺が嘘ついたことってある?』
嘘はつかれたことがない気がするけれど、なにか企んでいるとは思う。わたしを好きだといったことや、こんな電話含め。
『ある?』
「ありません」
『だよねー、ないもん』
芦沢さんは"あんな熱い前田を見たのは、はじめて"と言っていた。——とはいえ、会っていいものなのかな。
『今度はヒロに連絡なんてしないから。約束するよ』
まるでわたしの気持ちを見透かしているかのような言葉に息を飲んだ。
だってこれって、わたしからも芦沢さんに言ったらダメってことになるのでは。