(A) of Hearts

わたしが秘書に向いてる?
どこが? よくわからない。

それから、ひとまず専務室に向かい空気の入れ替え。そしてパソコンを立ち上げメールチェックしつつ、それをプリントアウト。午前中の会議で使う資料と一緒にデスクへ置いた。

いつもとなんら変わらない朝だ。

なんてことはない。
いつも通りやればいいよね。

と、そんなときドアが開いた。


「いたのか」

「お、おはようございます」

「おはよう」


突然の芦沢さん。
いつもより少し早いから驚いてしまう。

顔を合わせるまではどうなることかと思ったけれど、オフィスでの芦沢さんもこれまで通りだ。

ホッと胸を撫でおろす。
オンオフはきっちりと分けたいといっていたし当然。

そしてデスクに置いた資料をいつものようにパラパラと捲る芦沢さんへ今日の予定を伝達しつつ時計を確認。朝礼にはまだ時間がある。


「わかりやすいな」

「ありがとうございます」


DWグループについて纏めたものだ。
創業者が前田さんのお祖父さん。


「この方は前田さまのご親族の方ですよね?」

「よく知ってるな」

「前田さまから伺いました」

「そうか」

「しかし敵ではないのですよね?」

「そうだな」


ここではじめて手元の資料から顔を上げた芦沢さん。


「疑問に思ったことは?」

「と、申しますと?」

「ないならいい」


え、なに急に。
そんなの突然聞かれてもわからないよ。

だけど——、不思議に思ったことならある。


「前田姓の幹部がいないことは疑問に思いました」


それだけではない。創業者の孫である前田さんの会社はDWグループとはいえない。かろうじてそうであるだけで、下請けともいえない。

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