(A) of Hearts
運命のカード


♡♡♡♡♡♡



「——ねむ」


昨日は大学が一緒だった友だちと久しぶりに遅くまで飲んでしまった。そのせいで寝坊をしてしまい現在に至る。さっきから目がしばついて仕方がない。

いまにも出てしまいそうな欠伸を堪えるため、人目を気にしながら見上げれば高い天井が目に入った。


ずいぶん高い。
3階部分まであるかな。
はじめてちゃんと見たかも?
天窓になってるじゃん。


会社の一番明るい場所で涼しげな表情を浮かべているのが、わたしの仕事。必死に走ったので遅刻は免れたけれど、それを表情に出してはいけません。


しかし眠い。
眠すぎる。
飲みすぎたかな。
てか暇なんだよね。
だから眠くもなるって話でさ。
また欠伸が出そう。

すると隣に座る友香さんがコツンとわたしを肘でつついた。いま電話応対中の彼女。

慌てて姿勢を正す。一人の見慣れない男性がエントランスに入ってきた。


「いらっしゃいませ」

「失礼いたします。K会社の伊藤と申します。営業部長の佐々木様にお約束させていただいておりますが、おいでになられますでしょうか?」

「K会社の伊藤様でございますね。お待ちしておりました」


晴れて社会人になったわたしも入社してもうすぐ1年。仕事にはだいぶ慣れたと思う。——というか、そんなにすることもないし。


「佐々木はまもなく参ります。どうぞあちらへおかけになって、お待ちいただけますでしょうか」

「ありがとうございます」


希望していた業種に就職が決まって喜んだのもつかの間、いざ配属されれば受付だった。

言葉は悪いかもしれないけれど、毎日こうやって会社の入り口に座るマスコット的な存在で、やることやったら暇。暇すぎる。

目の前にあるパソコンで仕事しているふりしてネットしながら時間を潰すこともあるほど。

< 2 / 222 >

この作品をシェア

pagetop