(A) of Hearts

やっぱり芦沢さんに日曜日のことを伝えたほうがいいのでは?

だけど前田さんはデートといっていたし、そんなことまで報告する必要はない気もする。それに今回は芦沢さんに連絡を入れないといっていた。

なんかモヤモヤするよ。


「毎日電話してると昨日前田がいってたけれど、そんな話までしてたとは驚きだな。仕事の話もしているのか?」

「いえ、ちょうど資料を作り終えたところで、ふと気になって訊ねてみただけです」


芦沢さんの婚約者であるアヤさんは以前、前田さんの子を妊娠したことがあるとかも聞いたことはあるけれど。そんなこと言えない。

小さく息を吐き出した芦沢さん。


「なにかお飲み物をお持ちしますね」

「いや、いらない」


会議の書類は揃っているし午後からのアクセスも確保してある。来週からの出張に関連した予約も抜かりのないようすでに済ませてある。あとは——、


「案外普通にやっていけそうだな」

「はい…?」

「ちぃ秘書」


ぬ、抜け抜けと…っ!
わたしがどれだけ意識が逸れないようにしているか。

もし婚約を破棄したらどうなるのだろう。しかもそれが秘書であるわたしが原因となると、芦沢さんの立場が悪くなるのではないか。

キスマークがいつまで残るものかはわからないけれど、それが消える前にきちんと話す必要はあると思う。だけどそれはいま話すことではないような。

あれこれ考えだすとキリがない。
ただでさえキャパオーバーなわたしの頭がパンクしてしまう。

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