(A) of Hearts

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部屋を出ていくキミの後ろ姿を見送ったあと、こめかみを揉む。

そして息を吐き出した。


前田と付き合うだと?
昨日のことはなかったことにしたい?


なんだそれ。


いや、わかっているんだ。
こんなことに頭を使っている場合ではないことは。

しかし止められない想いもあるわけで。

彼女にはきちんと話し、それから前田との時間を取ろうと思っていた。

あいつは彼女の幸せを本当に心から願っている。そしてそれを俺が叶えるということを最も喜んでいるヤツだ。だから前田にはきちんと話さなけばならないのに先手を封じられた気分。とはいえ、こんな気持ちのまま誓いを立てるわけにもいかない。


『これからも素敵な上司であってほしいです』


願ってもいなかった就任。
正直言って不安しかない。

だけどキミが望むのであれば、そうありたいと思う。


「あー…、疲れる」


時計に目をやれば、そろそろ始業時間。

以前、ここから見える光景をよく覚えておけと偉そうに話したけれど、どうやら俺よりキミのほうがよほど立場を理解しているようだ。


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