(A) of Hearts
「——申し訳ございません」
「いいよ、べつに。姉貴はモデルじゃなくてデザインのほう」
「えっ、凄いですね!!」
「X-ZONEって知ってる?」
「知っています!」
たしか海外で有名なブランド。パーティードレスやブライダル関係とかも扱っていたはず。ついこのまえ、テレビで特集を見た気が。
「あそこのデザインやってるんだよね」
「——え、ええええ!!!!」
「女の子ってドレス好きだもんね」
「いえいえ、わたしはそんな」
「ドレスって胴長でも足が太くても、デブやチビでも、どんな女性でも一番綺麗な姿に変身するから面白いよ」
そして、こちらを向いた前田さん。
「そういえば、このあいだヒロが選んだ服、あれ館野さんに似合ってた」
「ありがとうございます」
ふふんっとどこか満足そうに笑った前田さんは、いま会場に向かっていると言ってタクシーを停めた。
「わたしもご一緒してよいのでしょうか?」
「ああ、顔パスだけど念のためチケットも用意してもらったし、そんなの気にしなくて大丈夫」
「ですが、こんな普通の服で行っても?」
「見て見て、ほら。俺も普通じゃん?」
まあ、たしかに。
今日はかなり地味な感じと思う。薄地だけど高そうな生地の黒いシャツと細身のデニムだ。
「じゃあ行こう。お昼はあとでもいい?」
「あっ、はい」
ふたたび時計を確認しながら運転手に行き先を告げ、急いでほしいと一言添えてから一息つく前田さんは、わたしが"ちぃ"だということをまだ耳にしていない様子。
「芦沢のお父さまと、お姉さまがご結婚されたと伺いましたけれど、デザイナーの方がそうでしょうか?」
「もう知ってるんだ? ちがうよ。姉貴3人いるからさ俺。一番上の姉貴がそう」
なるほど。
思いも寄らない展開ではあるけれど、気になっていたことは聞けそうだ。