(A) of Hearts
「千尋ちゃん。ほらアツも。喧嘩したら駄目じゃない。ラストは華やかに飾ってよ!!」
「おっけー任せといて。彼女が緊張するといけないから意識を違うほうに向けただけだし」
な。
なんですって!?
そんなんでキスしたの?
「そうそう、あのね千尋ちゃん? センターに結婚を控えた大事なお客様がカップルでいらしてるの。ブーケは彼女にプレゼントしてくれる?」
「——ブーケ?」
「そうブーケ。これを受け取った女性は、つぎに幸せな結婚ができるってジンクスがあるじゃない?」
ま、まさか。
わたしが着るのってウェディングドレス?
しかも相手が前田さん???
「早く着替えたら? いままだ下着姿に近いけど」
「ま、前田さま」
「花嫁は幸せそうに笑うのが鉄則。だけど元受付嬢なら、そんなのなんてことないだろ?」
「ここまで前田さまが仕組んだことでしょうか」
「そんなまさか」
いつのまにか完全に前田さんのペースじゃない?
わたし嵌められたの??
「はい千尋ちゃん。跨いでもらっていいから」
そしてお姉さんの指示通り袖を通していく。
肩が大きく開いたミニのドレスはウエディングドレスというイメージから外れてキュートな感じ。だけどわたしが着るからミニなだけで、背の高い人が着たら下着が見えそうなほどマイクロミニな勢いだ。
「背の高い子がこれ着るとヤラしくなり過ぎてしまうというか、なんかイメージと違ったけれど。千尋ちゃんならピッタリだわ」
「本当ですか…?」
「とても綺麗だよ館野さん。笑顔でよろしくね」
ほんとムカつく。
どうしてこんなことに。
するとお姉さんが"花嫁は小慣れてるより初々しいのが一番いいから"と耳打ちしてくれた。
「——本当にわたしで大丈夫ですか?」
「バッチリよ。あとはアツに合わせて」
「合わせるとは?」
「あの子が上手くやるわ」
本当に?
大丈夫かな。
「ブーケよろしくね」
「は、はぃぃ!」
「頑張ってね」
よし頑張ろう。
これも経験!
「行くよ」
そして前田さんの言葉で一歩踏み出した。