(A) of Hearts
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ステージに立てば眩しすぎて客席なんてなにも見えないし里芋が並んでるみたいだった。
なんてことはない。
てなことを思いながら、だけど緊張しているせいか顔だけが熱くて。
「ひゃ…っ!」
隣を歩いていた前田さんが、突然わたしを抱えてお姫様抱っこ。
目はチカチカするし、一瞬なにが起こったのかわからなかったけれど客席からは拍手が湧き起こった。真下からのアングルで前田さんを見上げれば、ちょこんと首を傾げて見たこともないような王子スマイルで微笑みかけてくる。
なにこの人…!
超ウケるんだけどっ!
舞台に立つまでの表情とあまりにもギャップがありすぎて思わず吹き出してしまった。すると王子スマイルの前田さんは、わたしの頬に口づけてキラびやかな歯を見せる。
吹っ切れているというか、なんといえばいいのか——。場慣れしている?
このありえない前田さんの豹変振りがコントのように思え笑えて仕方ない。それが緊張感と混ざり合って変にはしゃいでしまう。
すると暗かった客席にスポットライトが。
いままで里芋にしか見えなかったのに、そこだけがクッキリ照らしだされた。ぼんやりと広かった視界が一気にそこへ集中。
そうだ忘れるところだったよ。
あそこにいる人にブーケを、
「あ……」
ヒロとアヤさんがそこに座っているのを頭が認識するまで数秒かかった。
「行こう」
耳元でそう囁くのは前田さん。
「ほら、早く」
「——知っていたのですか?」
「当然」
王子様スマイルを崩さず顔を覗き込み、それからゆっくり抱き寄せた。
「だけど計画通りってわけじゃないよ。こうなるように、ほんの少し手を加えただけで自然の流れ」
「……なんで、どうして、こんなこと」
「俺は館野さんがなぜ突然震えているのか、そっちのほうに興味がある。どうして? なんかやましいことでもあるの?」
何もいえない。
頭の中が真っ白。
そして、わたしの頭を撫で、ふたたび頬へ口づける前田さんは変わらずの王子スマイルで。