(A) of Hearts
「なあ館野? お前なんでこの会社に?」
「最初に内定いただいたからです」
「あ、そーですか」
「ですが、これからは努力させていただきます」
「はいはい」
そしてふたたび訪れる静寂。
まるで沈黙に呑み込まれてしまったかのように、ひっそりと静か。
「———ひとつだけ、申し上げてもよろしいでしょうか?」
「なんだよ」
「ゲロはしていません」
返事の代わりに芦沢さんの溜息が聞こえた。
「嘘をついて申し訳ございません」
「四條さんは彼から電話が入って。部長にはご家族がいるから先に帰っていただいた。明日は俺が上手く立ち回れるよう、適当に話を合わせとけよ。それが俺と館野の、はじめての仕事だ」
「わかりました」
「へまするな」
「はい」
だけど。
「——あの」
「まだあんのかよ」
「わたしがここで寝るのは、婚約者の方に申し訳ないのですが」
「そんな了見の狭い奴じゃない。秘書だと言えばわかってくれる」
「そうですか」
どんな人なのかな。
きっとわたしなんかと違って、とても出来た人なんだろうな。
「ご迷惑をおかけしました」
「おやすみ」
「お疲れさまでした」