(A) of Hearts

くしゃくしゃになったシーツを伸ばして、そこへ横になる。するとシーツからはダウニーの、これは多分エイプリルフレッシュの香り。

いい匂い。


「……」


だけど目が覚めてしまった。
なんだか寝れない。

こっそり息を吐き出しながら何度も時計を確認し、そのままじっと朝を待つ。

まだ帰国して間もない芦沢さんの睡眠の邪魔をしてはいけない。

ニューヨークとは時差が14時間もあるのだし、疲れているはずなのに。申し訳ない気持ちでいっぱい。


「———ヒロって誰だ?」

「え……」


寝たと思ったのに起きていた。——だけじゃなく、ヒロの名前が出てきたよ!?


「さっき寝言で言ってたぞ」


嘘でしょ。
そんなわけない。
だけどもしかしたら口にしたのかも。


「——嫌いな人です」


わたしのことが。


「へえ」


そしてふたたび訪れた静寂。


「あの」


もう寝ているかな。
わたしの問い掛けに返事はなかった。

だけどそういうわたしも、なんだかだんだん瞼が重くなってきてる。


「おい」


ん?


「寝たのか? てか、よく寝れるよな」


呟くように、そう言った芦沢さん。

だけどわたしは返事をしなかった。だってすでに意識が朦朧としてる。
すいません、ごめんなさい本当に、と心の中で詫びを入れつつ、引きずり込まれるかのような眠気に身を委ねた。


「——らしいと言っちゃ、らしいけど」


なんだろう…。


「おやすみ」




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