(A) of Hearts
さっき芦沢さん、なんて言った?
「——ヒロ?」
静寂に向かって呟いてみる。
だけど返答は返ってこない。
当然だと思う。
寝たのかな。
「芦沢さん?」
「——まだ起きてたのか」
起きてるじゃん。
「アメリカに住んでいたことって、ありますか?」
違うと思う。
ヒロじゃない。
だけどさ。
「——10年ほど。社会人になってからを入れれば、もう少し」
「それならもしかして、ちぃって女の子のことご存じですか?」
「知らないな」
「ですよね」
わかりきっていた答え。
だってアメリカなんて日本の何倍も大きいのに、そんな偶然あるわけない。
「それが?」
「あ、ちぃはわたしのことなんです。もしかすると芦沢さんがヒロなのかなって思っただけです」
「そんなわけないだろ」
「ですよね」
「俺は嫌いなやつに似てるのか?」
「あ、申し訳ございません。ふと思い出してしまい…」
あれから10年以上経っている。
ほんの少し、もしかしたらって思ったけれど…。
「朝イチでクリーニング。もう寝ろ」
「——はい。ですが寝れなくて」
「それなら適当に喋っとけ。俺は寝る」