(A) of Hearts
「目が覚めた」
「——え?」
「なんか話せ」
「だけど寝たほうがいいです」
「覚めたもんは仕方ない。なんかとっておきのネタないのか?」
「そんなのないですよ」
「つまんないやつだな。それぐらい仕込んでおけよ」
「寝てください」
「ソファーで寝るにはタイミングが重要なんだよ。マックスで眠くないと無理。だから面白い話しろよ」
「残業つけてくれます?」
「はは」
きっと芦沢さんはわたしが秘書になるからこそ、こんなふうにしてくれている。だって、わたしたちがうまく機能しなければ、会社の人たちみんなに迷惑をかけてしまうだろうし。
いまさらだけど責任重大。そんなことを思いながら目を閉じる。
「寝れない」
「え」
「館野、お前がソファーで寝ろ。よく考えれば、なんで俺がソファーなんだ」
「えええ?」
「上司命令だ」
「そんなあ」
「——ぶ」
深夜テンション入ってるのかもしれない。なにげないことで笑える。
だって気を抜けば、こっちで寝てくださいって言いそうになってしまう。でもそれは、わたしの悪臭が残っているから避けたい。
どうしようか。
「——あの」
「なんだよ」
口を開いたはいいけれど、そのあとの言葉を考えていなかった。
「なに」
欠伸をかみ殺したかのような芦沢さんの声に、ひどく罪悪感。
「ベッドで寝てください。鼻にティッシュ詰め込めば、大丈夫かと思います」
「やばいウケる」
「——え?」
「いや、べつに」
「すみません、聞こえなかったです」
「わかった、そっちで寝る。鼻詮はビジュアル的に抵抗があるからしない」
そして芦沢さんが、立ち上がる気配。
思わず身を起こした。