(A) of Hearts
わたしと同じ感じで受付をやることになったらしい。
「さっき話した今日戻ってくる芦沢(あしざわ)さんって、28歳なんだって」
「28歳ですか? それならもしかして児島さんと同期です?」
児島さんは友香さんの彼。
人事部の社員さん。
「そうそう驚きでしょ? そんな若い人が専務就任だなんて。これで、うちも少しは外資系らしくなったんじゃない?」
「せ、専務なんです?」
嘘でしょ?
だって専務といえば社長の次じゃん。
いわば社長補佐だよ?
28歳で?
「て、いうかっ!!!」
フロントだと言うのを忘れ響くほどの大きな声を出してしまう。そんなわたしの足を友香さんが蹴った。いたたたた。
「———それじゃあ、富田専務はどうなるのですか?」
周囲を気にしつつ、声を落として友香さんに尋ねる。
うちの会社は役員にも定年制度がある。まだまだ若い55歳の専務は、お固くなくて嫌いじゃないけれど。
「富田専務は副社長。これって昇格なのかしら」
なんとびっくり。
だってそんな役職なかったのに。
「ほら、うちには副社長なんていなかったじゃない? だから昇格なのかちょっと微妙。だけどこのネタ、あと2週間ほどは内緒だからね。一昨日の総会で決まったらしいよ」
「———目が覚めるほどの、ビッグニュースじゃないですか」
「だよね」
友香さんは人事部の児島さんとおつきあいしているので、この手の話題は広報が出る前に知っている。
けれど富田専務を押しのけるだなんて。うちの専務と言ったら、富田さんなのに。
その当事者である今日帰国する予定の芦沢さんは、ニューヨークで3年働いていた人らしい。
「ところで芦沢さんって、どんなひとです? 友香さん知ってますか?」
専務をそんな微妙な立場に追いやるだなんて、一体どんな野郎なのかしら。