(A) of Hearts
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「——ちぃ」
そうそう。
わたしのことを呼ぶとき、ヒロは伸ばすんじゃないくて小さい"ぃ"がつく感じなんだよね。
なんか懐かしいなあ。
「起きろ」
声がしたほうへごろんと顔を向けた。
するとシャワーでも浴びてきたのか、髪の毛が濡れている芦沢さんが袖のボタンを留めている。
「——芦沢さん、いつ起きたのですか?」
「15分ほど前」
「ええ?」
「なんだ?」
「いえ」
あと30分ってところまでは起きていたのに。
なのに、なんで寝ちゃうかな。
「シーツとカバーだけ洗濯すりゃ充分だろ」
そしてわたしから布団を取り上げた芦沢さんは、テキパキと作業をしていく。
なんだか頭がボーッとするわたしは、べつに低血圧でもない。ただその手際のよさに、目が離せなかった。
「ほらどけ」
「——え?」
「邪魔」
「あ、わたしがやります」
「館野がやると時間が掛かる」
「ですが」
「どけ」
顎をクイッと上げ、早くどけといわんばかりに急かす芦沢さん。