(A) of Hearts

「役立たずで申し訳ありません」

「謝ってる暇あったら出る準備。そのまま同じ服で出社されても困る。家ってS市だろ? 送るから」

「そ、そんな!!!もう始発出てますし、電車で帰ります!」

「この時間なら車のほうが早い。帰ったらシャワーを浴びて、いつも通り出社」

「ですけど!」

「反抗禁止。あ、言い訳も禁止な」

「……」

「返事は?」

「——わかりました」


そしてシーツとカバーを抱えて部屋から出て行く芦沢さん。

バタバタと慌しい朝なのにも関わらずテキパキこなす芦沢さんが、なんか単純に"凄いなあ"なんて。思わず感心してしまった。

そして部屋の中を改めて見た。これまで気づかなかったけれど、すぐそこにわたしのコートとスカーフが掛けてあるのが目に入る。

なんか浮いてる。
てかミスマッチ。


「よっし」


頭を早々に切り替えるため勢いよく息を吐き出して立ち上がる。ハンガーを手にした。


「おい館野」


コートを羽織り、スカーフを巻いているころに芦沢さんがタイミングよく戻ってくる。


「準備できたか?」

「バッチリです!! てか、コート着るだけです!」


すると芦沢さんはネクタイを胸ポケットへ入れ、煙草を取り出し火をつけた。


「最後の1本。これだけ吸ったら出るぞ」


味わうように、まるで名残を惜しんでいるかのように。
ゆっくりと吸い込んでいく。

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