(A) of Hearts

「外では吸わないのですか?」

「プライベートと仕事をキッチリ分けたいだけ。見習っていいぞ」


目を細め、ふわりと煙を吐き出した。


「なんだ?」

「いえ?」

「ヘンなやつ」


そしてこれが最後とばかりに勢いよく煙草を吸い込み、それを灰皿に押し付ける。


「行くぞ?」

「——あ、はい!」


なんだか、わたしおかしい。
芦沢さんの、なんてことないちょっとした仕草に思わず目を奪われてしまう。


「腹減ったな。朝マックでも買ってくか」

「そうですね」

「車ん中、汚すなよ」


わたしの少し前を歩く芦沢さんがピタリと足を止め、振り返りそういった。


「はあい」

「返事は短くな」

「はい」

「——ぶ」


なんだかな。
ドキドキしちゃってる。

この朝の澄んだ空気にも、芦沢さんの声にも、それから芦沢さんの隣にも。

< 42 / 222 >

この作品をシェア

pagetop