(A) of Hearts

「明日から挨拶回りするしホテル押さえといて。あと新幹線のチケットと、それから」

「しょ、少々お待ちください」


わわわ。
そんな急に言われても。

あれ? メモ帳どこやったけ?
ポケットに入れてたはず。
あ、バッグに戻した??


「メモは常備すること」

「——はい、申し訳ございません」


だけど明日からだと思ってたんだもん!
なんてことは言えないけど。


「とりあえず肩慣らしからはじめよう。おたがい」

「と、おっしゃいますと?」

「正確にはいっぴづけだから、それまでに顔見せと挨拶は済ませておこうと思う。俺もだけど館野も秘書はじめとして、こういう作業は練習になるだろ」


ああ。
なるほど…。


「いまならまだ失敗しても許してやる」

「が、がんばります…っ!」

「これからよろしく」

「あ、はいっ!ビシバシご指導お願いいたしますっ!」

「——ふ」


小さな息が漏れた。
ネクタイを緩めながら、だけどこちらを見るでもなくPCを起動する芦沢さん。

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