(A) of Hearts

「わたしもまだ見たことないんだけれど、噂ではイケメンらしいよ。だけどまさか28とはね」

「児島さんとは仲良しなんですか?」

「どうかなあ? あまり聞いたことない。だけどまあ同期だし、それなりなんじゃない?」


どんな人だろう。
やっぱ出来る人?

いまの会社は不満も多いけれど、この社風をごっそり変えられちゃうのはイヤかも。


「狙ってみれば?」

「なにを?」

「芦沢さん」

「なに言ってるんですか」

「楽しそうじゃん」

「わたしには、男なんて必要ないです」

「いつまでもそんなこと言ってるとさ、周りが結婚しはじめると寂しくなるよ。誰もいなくなっちゃう。それにチヤホヤされるのも、いまのうち」

「そんなの上等です。男に頼るぐらいなら、ひとり寂しく生きてやる…っ」

「バカね」


バカでもいいよ。
だけどちょっと楽しみかも。

彼氏なんていらないけれど、こうやって毎日受付に座っているわたしにとって、いい男は目の保養になるだろうし。


「——あ、たぶん、あれだ」


エントランスに目をやった友香さんが口をキュッと結ぶ。

いままで雑談してたのが嘘のよう。
なんだか笑ってしまいそうだ。
わたしのプロ意識がなってないと、ちょっぴり反省。


「お帰りなさいませ」

「ああ、ごくろうさま」


そして社長と談笑しながら入ってきた人を目にをやる。わたしの笑顔は、そのまま固まってしまいそうになった。

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