(A) of Hearts
「だいたいうちの会社がよく利用するホテルが全部入ってる。オンラインで空室チェックも可能。新幹線のチケットも同じだけど、これは回数券とかあるから詳細は秘書課で聞いたらいい」
マウスを動かせ、キーボードを叩く芦沢さん。
しかし、わたしの心拍数が半端ないです。頭に入らないよ。こんなことじゃダメなのに。
「わかったか?」
「——はい」
ホントかよ、わたし。
ひとまずメモを取る。
「いまからそれ見とけ」
「あ、ですが」
「俺はこっち見るから」
そして芦沢さんはわたしの横にイスを置きファイルを開いた。
パラパラと紙の捲れていく音と、わたしが操作するマウスのカチカチって音が静かに響く執務室。ようやく心拍数が落ち着いてきた。
「——営業一課、板尾課長。どんな人だっけ?」
「板尾課長ですか? 短髪でムキムキッとした感じの、ちょっと怖い印象のある人です。その分、笑顔とのギャップは凄いです。去年ご結婚されました」
「なるほど」
わたしが1年前に必死でやったことを、いま芦沢さんが地味にやっているのが不思議。少しでも役に立ててるのかな…。
「営業はまったく知らないな」
「その辺は、わたし大丈夫ですよ! 任せてください!!」
「一年も受付やってたのに覚えてなかったら普通は解雇だろ」
「——ですね」
「あとさ。取引先で館野がわかる人だけでいいからリスト作れるか? さっきみたいに特長とか入れてくれると助かる」
「できます…っ!」
「それなら頼む。かなり助かるな」
「ま、任せてください!」
ねえ、ちょっと?
わたし役に立ってるよね?
なんか嬉しい!