(A) of Hearts
「ところで専務? ホテルをいくつかチェックしましたが、シングルおひとつでいいんですよね?」
「バカか」
「へ?」
「館野も一緒だ」
「——わ、わたしも?」
「そう秘書も」
な、ななななんと。
それならツイン?
いや、そんなまさか。だけど一緒って?
「シングルふたつな」
「かしこまりました」
だよね。
焦ったし。
一緒って紛らわしい単語を使うから、思わずツインとかダブルの部屋を想像してしまったじゃんか。
「先方のスケジュールが明日しか空いてないそうだから急だけど取れそう? 社有車の件も確認しとかないとな」
「少々お待ちください」
責任重大。
やることたくさん。すでに目が回りそう。
すると内線が鳴った。
専務への言伝はわたしがまず承るはずだけど、いまは秘書室じゃない。なので顔を上げた。
「出て」
「はい」
そして受話器を手にした。
内線は受付からだった。なんだかニヤけてしまう。
『1番に外線、坂下さまからです』
サカシタ?
聞いたことない。
誰それ。
『——たぶん、婚約者』
友香さんがボソッと付け加える。
「専務、サカシタさまからお電話ですけれど、いかがいたしましょうか?」
ちょっとドキドキ。
思わず芦沢さんの表情を観察してしまう。