(A) of Hearts

「なあ館野」

「なんでしょう?」

「女って難しいな」


え、ええっと。
どう答えればいいの。


「ひとりごと」

「——聞こえてますけれど?」


だけどそれから芦沢さんが口を開くことはなく、ふたたび静かなファイル捲る音だけになってしまった。

わたしは男のほうが難しいと思うけど。いやいや、というか芦沢さんが難解。

そしてひとつホテルを決め、確認を取ってから直接電話を入れる。社有車の件なども確認取れてほっと一息。芦沢さんは、いつのまにかべつのファイルを手にとっていた。


「お茶をお持ちいたしましょうか?」

「要らない」

「ではリスト制作以外で、わたしがお手伝いさせていただけることがあれば、おっしゃってください」

「いまはない」


ここにわたしがいても邪魔になりそうだ。
いま喋りかけるなオーラが凄い。
空気がビリビリしてる感じ。


「では秘書部へ戻ります。もしなにかあれば、お申し付けください」

「正式配属はいっぴからだし、まだいいだろ」

「——ですけど」

「反論禁止。専務命令。俺が準備段階なんだから館野もそれで」

「わかりました」


だけどやることがない。
秘書部へ戻ってリストを作りたいのにな。

とりあえずデスクの上にある社員名簿を、もとあったところへ戻した。芦沢さんは変わらず資料を眺めている。


「……」


しかしひま。
どうしたものか。

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