(A) of Hearts
「なんか変なもんでも読んだか?」
バレてる。
変なものではないけれど。
「わたしにできることは、なんでも取り入れたいと思っています」
「——ぶ」
「なんでしょうか?」
「いや、べつに」
そしてわたしの膝に置いてあった紙袋の中からおにぎりを取り出し、それを一口かじった芦沢さん。
美味しいかな。
どうだろう。
「なんだよ。こっち見んな」
「ちゃんと食べられます?」
「どういう意味だ? まさか味見してないのか?」
「しました」
「それなら食えるだろ」
そう言ってぽいっと全部口の中におにぎりを放り込み、もぐもぐしながら新聞を開く。
「うまかった。ごちそうさま」
やったね。
早起きしてよかった。
「しかしなんだ? 急に」
「じつは昨日買った本に、秘書は上司に惚れたほうが、いい仕事できると書いてありました。だからわたし、大丈夫です!」
「———あのさ。ちょっと待て。そういうの、心の中で思っといて。言われても反応に困る」
「専務がお聞きになるから」
本だけではなく、いろんな立場のブログや記事を目にしたけれど、できる秘書はみんな上司に惚れこんでいた。それは恋とか、そういうのではなくて。
だからわたしがドキドキするのも、その一種なんだと思う。
だって芦沢専務には婚約者がいるじゃん。
独身の上司につくならいざ知れず、これから身を固める人に向かって惚れるだなんてこと、ある?
ないないなーい。
そんなのありえなーい。