(A) of Hearts
え。
ちょっと待って。
どうしよう、見覚えがある。
ヒロじゃんか。
だけど違うかも?
そもそもヒロの苗字って芦沢だっけ?
「こんにちは」
するとヒロらしき人物が、そういってこちらを見た。
頭がグルグルしてしまう。
社長は顔を覚えておくようにといった。
「はじめまして。芦沢です」
最後に会ったのは、わたしが11歳。
たしかヒロは16歳だったはず。
だから別人で、似ているだけかも。
てか、もうヒロの顔なんてほとんど忘れちゃったし。似ているのかどうかですら、わからなくなってくる!
「はじめまして。わたくし、受付業務を任されている四條(しじょう)です」
簡単な自己紹介を済ませた友香さん。
あ、わたしも続かなくては。
「は、はじめまして」
落ち着け!
べつにヒロだからってなんなの!!?
それがどうしたの?
「館野 千尋(たての ちひろ)と申します。よろしくお願いいたします」
「四條さんと館野さんだね。こちらこそ、これからよろしくお願いします」
挨拶を終えてエレベーターホールに向かうヒロ、もとい芦沢さんの後姿を見定めるように眺めるわたし。
ううむ。
違うな、あれは。
あの人がヒロのわけない。
だってわたしの知ってるヒロが、あんな紳士なはずがない。