(A) of Hearts
「専務」
「なんだ?」
「指輪とか誕生日プレゼントまで、秘書に選ばせる上司もいるそうです。もちろんスケジュールがどうやっても空けられないから、そうなってしまうのでしょうけれど、秘書に選ばれたものなんて、わたしなら絶対貰っても嬉しくないと思うんです。だからそれだけは、頼まれてもお断りさせていただきます」
「——おお」
バッグの中からスケジュール帳を取り出した。
スケジュール管理はオンラインで芦沢さんとわたし同時にチェックができるものを利用しているけれど、きちんと書き残せるものも用意した。
これまでスケジュール帳なんて細かくつけていなかったし、デザインで気に入ったのを買っていたけれど今回は違う。
なんかすごい。とにかく、すごい。
なんてったって出来る女仕様。ドラマとかで秘書が持ってそうな分厚いの。
見た目で選んだものだけれど、これもきちんと活用していく。
「ところで、専務のお誕生日はいつでしょうか?」
「俺の?」
「そうです」
すると珍しく、わたしの顔をまじまじと見る芦沢さん。さすがにこの距離は少し近い。
勝ち負けで言うなら負けてしまったわたしは、スケジュール帳に視線を落とした。
「年中365日、プレゼントなら受け付けるぞ。そんなことより、ほかに書くことあるだろ」
ちぇ。
いいけどさ。
「——瀬山さんにお会いしたあと、夜まで少し時間がありますね。この時間いかがなさいます?」
「ホテル入って役員会議の資料作り」
「わかりました」
観光とかは、さすがに無理か。
たこ焼き差し入れしようかな。
この前テレビで見たの美味しそうだったし。