(A) of Hearts

「専務!」

「なんの用件だった?」


わたしは手短に事情を話し、それから所要時間の説明をした。


「行けると思います」

「厳しいな。それに大阪と新大阪は違うぞ。まあ、10分あれば大丈夫だけど」

「やっぱり無理でしょうか?」


断りの連絡を入れるにしても早いに越したことはない。気持ちは急いてしまうけれど、ここはじっくり考えなくては。失敗は許されない。


「——いや、いけるかな」


ゴーサインが出た。
すぐさま今井さんに折り返し電話を入れ、それから席に戻る。


「時間的に考えて瀬山さんとは、俺ひとりで会うことにする。館野は次の名古屋で降りろ」


え。
わたしひとりで?


「聞こえたなら返事」

「はいっ」


どうしよう。
名古屋なんて右も左もわかんない。
とにかくGホテルを目指せばいいんだよね。

「ちょっと待ってろ」


そして芦沢さんは席を立ち、デッキへ消えた。
わたしは今井さんから送られてくるメールに目を通しつつ時間をチェック。あと30分ほどで名古屋に到着する。
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