(A) of Hearts

だ、だめだ。
ソワソワ落ち着かない。
何度もデッキのほうへ目をやる。

ドアが開くたび、携帯を耳に押し当てた芦沢さんの姿が見えた。


「うー」


なんか胃が痛い。
どうなっちゃうの?

なのになにも出来ず焦りばかり募る。てか、悠長に座ってる場合じゃない気も!


「館野、メモ用意」


すると芦沢さんが戻ってきた。


「あと20分で名古屋だ。降りたら藤崎という男が待っている。そいつの指示通り動け」

「藤崎さまですか?」

「営業の藤崎な。今日は名古屋に出張中。午前中だけなら時間がとれるそうだ。午後からは名古屋でI社秘書の高嶋さんと落ち合ってくれ」


ちょちょちょ、ちょっと!
書くのが全然追いつかない!

てか営業の藤崎さんって——…


「まず藤崎の番号言うから控えろ」

「あ、お待ちください。営業部の藤崎さんなら番号知っています」


2回食事に誘われた。
3歳年上の人。
だけどI社の秘書って?


「あ、ありました!」

「——よし。じゃあ高島さんの番号が、080の——」


誰だかもわからない高嶋さんという人の携帯番号を言われるままに書き写していく。
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