(A) of Hearts
そしてわたしが立ち上がると芦沢さんが右手をパーにして、ほんの少し眉のあいだを広げた。
それをバイバイの合図かと思ったわたしは、慌ててペコリと頭を下げる。
「違う。手を出せ」
「——へ?」
わけがわからず首を傾げれば、
「ハイタッチだろ」
芦沢さんがわたしの右手首を掴み、自分の右手をそこにパチンと勢いよくあてた。
「イッた!! 痛いじゃないですか!!!」
手がピリピリする!
「早く行け」
「痛いですー」
だけど緊張と不安で気が重く沈んだ感じだったのが、いまので軽くなった気がした。硬くなっていた自分の顔も、ちょっと緩んだってわかる。
こんなの些細なことで、だけどおそらくこれは芦沢さんの配慮なんだろう。なんとなくそう思えて喝が入った気分だ。
「またあとでな」
「はいっ!」
よし頑張ろうっ!!
頑張るぞ!!!