(A) of Hearts
「どう? 専務秘書は」
「まだちゃんとはじまってないのにドタバタして目が回りそうですよ…」
他愛ない会話を交わしつつ藤崎さんの隣を歩く。芦沢さんは着いたら藤崎さんの指示通りに動けといっていたけれど——、
「あの。ところで、どこへ向かっているのです?」
「あーうん美容院? 取引先の娘さんが経営されてるところがあって、ちょっと早いけれど特別に開けてくれるって」
「な、どうして美容院です??」
「次期専務からの指令?」
「えええ?」
わけがわからない。なんで?
もっと小奇麗にしろってことかな。
秘書は清潔感が第一とのことだから気を付けてはいるのだけれど。
「昼にGホテルでパーティーがあるんだろ?」
それと美容院に、なんの関係が。
まさか。
「わたしもそれに参席するのですか?」
「そういうことじゃ?」
「ええええええ」
嘘でしょ待ってよ。
いまさらだけどパーティーってなにするの!?
「こっち館野さん」
ちょいちょいと手招きする藤崎さんは、開店前の美容院のドアを開けた。
店内はまだ薄暗く、あちこちカバーが掛かった状態だ。
「ここでわたしは何をされるんです!?」
「パーティー仕様に変身」
どーん。
「マジですか!」
「おお超マジだ!」