(A) of Hearts
「今回は出来る秘書とのご注文なので、より上司を引き立てるよう控えめで目立たない、言葉は悪いですがアクセサリー的な感じに仕上げさせていただきました」
鏡に映るわたし。
上司を引き立てる、か。
なんか、なるほどなって。
いつもより落ち着いた感じに見える。——気がする。
「お気に召されましたか?」
「もちろんです。ありがとうございます!」
なんかイケそうな気がしてきたよ。
それにメイクってすごいね。
やっとその魅力がわかった気分。
「いいじゃん」
するとなぜか藤崎さんが満足そうにそう言って腕時計に目をやった。
わたしも確認すれば11時前。
いつのまにか店内には、わたしたち以外にもお客さんの顔がチラホラ見える。
「——お代は、どうすれば?」
今日はそんなにたくさん持ち合わせていない。
こんなことなら、もう少し持って来たらよかった。
「あ、これ経費だって」
「嘘でしょ?」
「いやホント。領収書貰ってきて欲しいって。それぐらい大事な席なんじゃないのか? 俺にはよくわかんないけどさ」
「……そうなんですね」
責任重大だな。
大丈夫かな。
新幹線止まったりしない?
ホテルに向かう途中、事故渋滞とか。
それで専務が間に合わなくて、とか。
あああ…。
ネガティブ論争が頭の中で勃発だよ。