(A) of Hearts
「……あのう、藤崎さん。もし明日会社がなくなってしまったら、すみません」
「どんなミスしでかす気だよ」
「いや、なんとなく」
「会社なくなるほどのミスしたらしたで凄いな。てかホント館野さんて飽きないな。また食事でも行こうよ」
「はい」
「あ、ほんと? じゃあ来週金曜日は?」
「——え?」
なんの話?
来週って?
「金曜」
「すみません。考えごとしてたので話を聞いてませんでした。だけどこのお礼は、きちんとさせていただきます」
「館野さんて、なにげに冷たいよね」
「そうですか?」
「うん」
「どこがです?」
「笑顔で人を刺せるタイプ?」
「えっ!」
「ウソウソ冗談」
最寄りのコーヒーショップに入り高嶋さんと待ち合わせ。だから、さっきから携帯が気になっている。
わたしが藤崎さんの話を聞いてないから、こんな話の流れになったんだっけ?
あれ。ちょっと待って。なにから考えればいいのかわからなくなっている。
うん、とりあえず落ち着こう。
だけど、わたしさっきからそればっかり。
こんなことでは駄目だ…っ!
「そろそろ高嶋さまに連絡を入れてみます。なので仕事に戻ってください藤崎さん」
「あー、もうこんな時間か」
「ありがとうございます」
「いえいえー。お礼楽しみに待ってるから。じゃ頑張って」
藤崎さんと別れたあとメモ帳を取り出す。
そこに記載された番号を何度も確認しながら押していく。
そして深呼吸。
よし。