(A) of Hearts
『おはようございます。I会社 高嶋でございます』
しっとりした柔らかく大人の声で話す高嶋さん。
挨拶を終えたあと、いくつか言葉を交わしていると、堅苦しい言葉はなしでいきましょうといってくれたので、そうすることに。
そしてなんともう駅前まで出てきてくれているそうだ。
『あ、じゃあ、あれかな?』
その声にキョロキョロ見渡せば携帯を持って手を振る女性が目に入った。
慌てて歩み寄っていく。てか緊張する!
「わざわざ時間を作っていただき恐縮します。ありがとうございます」
「いえいえ。わたしたちも参席するから気になさらないで」
「そうなんですか!?」
「そうなの」
ああ、よかった。
なんかすごくよかった。
「館野さんまだ秘書はじめたばかりなんだよね?」
「はい…っ」
「秘書って孤独に感じることも多いかもしれないけど、社外での情報交換が命取りにも繋がるんですよ。横の繋がりはとにかく大事。だから連絡を取り合うことが多いのよ。うちの前田になにかあったときは、こちらがお願いするから。これからもよろしくね」
「はい是非!」
そういえば社長秘書の今井さんもいっていた。
秘書はとにかく社交的なほうが好まれるし、そこから得られる情報も多くなるからボスのためにもなるって。こういうことなのかな?
「うちの前田と芦沢さんは古くからの付き合いだと聞いています。お会いできて嬉しいな」
「そうなのですね。わたしなにも知らなくて…。こちらこそよろしくお願いします!」
なんだか今日は、いろいろ試されている気分。
だから今日という日を無事に乗り越えさえすれば少しは自信がつくかもしれないな。
とはいえ全部、他力本願。
わたしひとりじゃ何もできなかった。
「これなんか、どうかしら?」
「——すみません」
「どうしたの?」
「なんかわたし情けなくて」
泣けてしまう。