(A) of Hearts

「失礼いたしました…っ!だけどもう、大丈夫です!」

「——頼むぞ?」

「はい…っ!」


こんなことじゃ駄目だ。
ほんとに!!!
だって時間もない!!!


「すぐ服選びます」

「これにしろ」

「——へ?」


芦沢さんが手にしているものは、ごくごくノーマルな、だけどワンポイントにもなっている淡いピンクの花柄がかわいいワンピース。


「これなら館野に似合うと思う」

「あ……、かわいいですね」


頑張る、頑張ろうって、なんかずっと背伸びして、それも爪先で立ってるみたいな感覚で。

ヘンに空回りしていた。


「ありがとうございます」


手渡されたワンピースは、そんなぐちゃぐちゃした気持ちに気づかせてくれ、しかも一掃してしまうほど、とってもキュート。

袖を通せば涙も引っ込む単純なわたし。
たぶんこれが、本当のわたし。

昔から怒られたり緊張しすぎると、つい笑ってしまう自分のクセを、いま思い出してしまった。

だって鏡に映ったわたしはニヤけている。

だけどいまのこれは緊張じゃなくて、それが一気に解れたときの安堵感から。


「着替え終わりました」

「おお」

「どうですか!? わたし、なかなかイケてますよね!?」

「——お前な」

「行きましょう専務!」

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