(A) of Hearts
「こういう場所では、稀に秘書の引き抜きがある」
「——と、申しますと?」
「有能な秘書を見極めて接触し、いまより優遇して自分の会社へ引き入れることだ」
「そうなのですか」
わたしには無縁だな。
当たり前だけど。
「自分には関係ないって顔してるけれど、たまにエロ親父がそれ目的で声を掛けてくるから気をつけろよ」
「——え。それ目的って、」
って、なに。
だけどエロ親父ってことは?
「えええ???」
「あの手この手を出してくるから、それを見極めるのは難しい」
「そうなのですか!?」
「立ち直りの早さは認める。俺は館野を手放す気がないから、一人になったとき誰かに声を掛けられても無視しろよ」
「……」
思わず黙り込んでしまった。
「返事は?」
「か、かしこまりました。しかし心配後無用です!だってわたし、専務に惚れてますから」
「——あのな」
「行きましょう」
わたしの想いは絶対に通じ合うことがない想いだけれど、その気持ちを発散できる場所って秘書しかない気がする。
秘めた想いは、仕事に向ければいい。
これも惚れこむってことでしょ?
だけどこんなことをわたしが言ったら「意味を履き違えている」とかさ、どうせ言われちゃうんだろうなあ。