(A) of Hearts

「申し訳ございません。シングルはすべて満室だそうです。ツインなら一室、空いてるそうですけれど」

「ツイン?」

「他をあたってみようと思います」

「いいそれで」

「——しかし」

「反論禁止。これ以上は俺も館野も無理だ」


そして欠伸をする芦沢さん。
早く寝かしてあげたいって、心からそう思う。


「それではツインをお取りしますね」


わたしはネットカフェでもどこでもいいや。


「もしもし? お待たせしてすみません。ツインでお願いします。もうすぐそちらに到着しますので、よろしくお願いいたします」


そして携帯を切る。


「これは俺のミスだな。悪い」

「違いますっ!わたしが気づくの遅れただけです」

「どっちでもいい」

「専務…っ!」

「連帯責任ってことで」

「し、しかしですね」

「先が思いやられるな」


あああ…。ごめんなさい。
だけどそんなこと言ってられない。

芦沢さんに目をやれば、首をポキポキ鳴らしていた。

窓の外は真っ暗だ。
会話も止まる。

なにか気の利いた言葉でも並べようかと思ったけれど、なにを喋っていいのかわからないので沈黙が続いてしまった。

すると突然、微かな振動。
芦沢さんの携帯のようだ。
< 79 / 222 >

この作品をシェア

pagetop