(A) of Hearts
「申し訳ございません。シングルはすべて満室だそうです。ツインなら一室、空いてるそうですけれど」
「ツイン?」
「他をあたってみようと思います」
「いいそれで」
「——しかし」
「反論禁止。これ以上は俺も館野も無理だ」
そして欠伸をする芦沢さん。
早く寝かしてあげたいって、心からそう思う。
「それではツインをお取りしますね」
わたしはネットカフェでもどこでもいいや。
「もしもし? お待たせしてすみません。ツインでお願いします。もうすぐそちらに到着しますので、よろしくお願いいたします」
そして携帯を切る。
「これは俺のミスだな。悪い」
「違いますっ!わたしが気づくの遅れただけです」
「どっちでもいい」
「専務…っ!」
「連帯責任ってことで」
「し、しかしですね」
「先が思いやられるな」
あああ…。ごめんなさい。
だけどそんなこと言ってられない。
芦沢さんに目をやれば、首をポキポキ鳴らしていた。
窓の外は真っ暗だ。
会話も止まる。
なにか気の利いた言葉でも並べようかと思ったけれど、なにを喋っていいのかわからないので沈黙が続いてしまった。
すると突然、微かな振動。
芦沢さんの携帯のようだ。