(A) of Hearts

「では、ここで失礼いたします」

「は……?」

「明日は何時に連絡を入れればよいでしょうか?」

「なにいってんの、お前」

「新幹線の時間もありますし、7時でよろしいでしょうか?」

「どこで寝るつもりだ」

「ネットカフェです」

「バカか」

「へ?」

「大袈裟に構えるな。俺がやりにくいだろ?」


だって。
そんなこと言われても。
一緒の部屋なんて無理だ。


「はいどうぞ。早く中に入ってくださいな」

「いえ、ですが…っ!」

「声でかい。何時だと思ってるんだ」

「申し訳ございません…」

「入れよ」


あああ…。
いいのかなあ。


「——お邪魔します」

「俺んちじゃないけどな」

「あ…。そっか」


ぶふっと小さく吹き出したあと、ずんずん部屋の中に入っていく芦沢さん。

本当にいいの?
こんなのよくあることなのかな。
高嶋さんに聞いておけばよかったよ。


「———あの専務? お伺いしたいのですが」

「なんだ」

「ご婚約者の方は今日専務とわたしが同室だってことを、ご存知でしょうか?」

「いや?」

「それでは、この前わたしが一泊したことを、お伝えなさいましたか?」

「わざわざ伝えることじゃないだろ」


そうなのかな。
わたしが婚約者の立場なら隠されているほうが嫌だと思う。耳にしてもいい気はしないと思うけれど、隠されるよりはよくない?

でもこれまで深いお付き合いしたことないから、男女のそういうルールがいまいちよくわからないな。

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