(A) of Hearts
「館野も起床いたしますっ」
「お好きにどうぞ」
一歩踏み出せば足が昨日とは違う痛みを持っていることに気づいた。
筋肉痛でもなく、なんだろ。
足が攣ったのは現実?
それとも夢?
「あ、館野」
「はい」
「俺はギリギリまで資料作りしとくから。着替えたらサンドイッチか、おにぎり買ってきて」
「かしこまりました」
現実のわけがない。
だってわたし、抱きついたし。
それも、かなり強く。
芦沢さんはいつも通り、とくに変わったところもない。
だけどさ……。
おでこに触れた感触を思い出した。たぶん、あれはキスで…。
いやいや。
ちょっと待ってよ。
わたしったら妄想が過ぎるんじゃ?
もしかして欲求不満なのかな。
あんな夢を見るだなんて。
穴があったら埋まりたい…っ!!!
「なにしてるんだ?」
「——いえ、あの、布団の匂いを消さなければならないのでスプレーを」
「大変だな」
「無臭スプレーですから、ご迷惑にはならないかと思いますけれど、こればかりは…。申し訳ございません」
布団を手に取り、そこへ鼻をつけてみた。
だけどなにかを確認できるほどの香りは残っていない。
「ひと吹きさせていただきますね」
「どうぞ」
よし完了。