(A) of Hearts

「館野」

「はいっ!なんなりとお申し付けください」

「いまから昨日約束した通り連絡するから。そこで待機な」

「——へ?」

「昨日言っただろ」


あ。そうだ。
そんな話もしていたっけ。


「こんな朝早くです?」

「もう起きてるはず」


目を細め口許を緩めた芦沢さん。
そして片手で携帯のロックを解き操作していく。

まだほんの少し薄暗い部屋の中、ディスプレイの光が専務の顔をチラチラ照らした。


「あの…。わたし、ここにいてもよろしいのでしょうか?」

「言葉でだけなら、なんとでも言えるだろ。だから証人として」

「はい」


パジャマの裾をギュッと握った。
どこか堅苦しい会話と不釣り合いな姿だよ。
どうしてわたしは、こんな格好で待機しているのか…。

だけどさ。もしかしてわたし、夢で見たあれが芦沢さんだったんじゃないかと。というよりは、夢などではなく現実だったのではないかと、ちょっとだけ期待していたのかもしれない。

だってなんかいまガックリきてる。

バカだなあ。
そんなわけないのに。
どうかしてるよ。


「もしもしアヤ? いま大丈夫か?」


芦沢さんはわたしの顔をじっと見たまま口を開く。わたしのほうが目を逸らしてしまいそう。


「——ああ、ちょっとしたトラブルだったんだ」


これでよかったんだよね。
わたしは間違っていない。


「まあ、そういうことだ。ところで今日、食事でも一緒にどうだ? いつものところで」


きっと大人の女性なんだろうな。
わたしなんかだったら、他の女と一晩過ごしたと聞かされたら、ずっと電話を繋げていて欲しかったとか言い出しそうだもん。

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