(A) of Hearts

「じゃあ、俺もひとつ訊くぞ。これまで館野は何人の男とつきあった?」

「——へ? そんなの訊いてどうなさるのです?」

「お前の質問と似たり寄ったりだろ」


あ。
たしかに。


「申し訳ございません。おっしゃる通りです。以後慎みます」


なんであんなこと訊いてしまったかな。わたしには関係のないことじゃんか。


「——ああ、なんかガキくせ」

「申し訳ございませんっ」

「謝んなくていい」

「はい…?」

「お前じゃなくて俺がそうだから」

「え…?」

「俺が」


煙草を灰皿へ押し付けた芦沢さん。


「専務が? どうしてです?」

「内緒」


そして少し目を見開き、どこかいたずらっぽく肩を上げた。
その表情にドキッとしてしまう。
不意に見せた子どものような顔。胸が締め付けられてしまう。


「というか腹減りました。早くなにか買ってきてください」

「——あ、はい。すぐに!」

「悪いな」


どれに対して謝ったのかわからないけれど、芦沢さんはそう言ってくるりと背を向けた。わたしは急いでバッグを掴んでバスルームへ。

朝の準備に関して言えば、そこらの女子に負けない自信がある。ほとんどメイクしないだけなんだけれど。


「うあっ!!!!」


だけど鏡を見てびっくり。
おでこがツルッと全開じゃん。
こんなに間抜けな姿をさらけ出していたのにも関わらず、よく芦沢さん笑わずにいられたよね。

笑うよ?
普通。

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