テンポラリーラブ物語
「斉藤さんはどうしてここで働こうと思ったの?」

「はい、あの、私9月から留学する予定なんです。そして今、このビルの二階の英会話学校に通ってまして、場所は最適で、そして社長と話したとき、8月末まででもいいからと言ってもらえて、それで働くことになりました」

 英会話という言葉を聞いてもう充分だった。

 この子は前日に見た子に間違いないだろう。

 なんという偶然だろうか。

 そしていつまで持つかと思案したところで、すでに期限付きだった。

 8月末までの短い期間なら、途中で辞めることなく最後まで働くことだろう。

 約4ヶ月の付き合い。

 氷室の中では、なゆみはさらにどうでもいい存在になっていた。

「ふーん。留学か。どこに行くの?」

「カリフォルニアです」

「そう。よかったね。ところで君、いくつ?」

「20歳になったばかりです」

「若いね。まあ8月末までよろしくね」

「はい、こちらこそ宜しくお願いします」

 なゆみは深々とお辞儀をする。

 真面目腐った愚直な雰囲気が面白みにかけると、氷室は適当にあしらうような態度を見せていた。

 やがて従業員たちが現れ、簡単に紹介を済ませた。

 あとは従業員に任せ、氷室はコンピューターの電源を入れると、自分の仕事の準備にとりかかった。
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