テンポラリーラブ物語

 開店と同時に店にはあっという間に客が取り囲む。

 毎日来る常連もいて、そういう客はプレミアがつきそうな、今は手に入る事がないテレフォンカードや、市場に出回らないレアな非売品などを漁りに来る。

 そういう価値がついて、お金になりそうなものも客は売りに来るので、目玉商品の一つとして取り扱っていた。

 趣味の収集、お宝探し、オークションの転売など、様々な目的を持って客が来る。

 氷室はうっとうしいといつも思いながら、そういう客たちを見て一日のスタートを切る。

 即お金が欲しいと人は色々な物を売りに来て、それが売れるとならば店は買い取り、その種類も様々。

 ありとあらゆるものが並べられていた。

 慣れているものはどこに何があるかすぐに分かるが、初めての者には戸惑うことばかり。

 初めてここに来たなゆみはどうしているのだろうと、氷室はちらりと様子を伺った。

 店には制服を導入してるが、なゆみは入ったばかりでまだ支給されていない。

 一人だけ浮いた格好で、緊張した面持ちで立っていた。

 古株の上野原ミナがリーダーシップを取っている。

 この店の女の子の中では一番の年上で25歳。

 少しきついところもある性格だが、専務が採用した女の子よりかはよっぽど仕事ができ常識はあった。

 なゆみのような粗野な女の子は、なかなかミナとは合わないんじゃないだろうかと氷室は分析していた。

 なゆみは初めてで何も分からないというのに、意気込みだけはしっかりとしている。

 素直になんでも「はい、はい」と元気よく返事をしては、言うことをしっかり聞いていた。

 だが顔は不安げに強張っているところを見ると、相当無理をしているのが読み取れた。

 それでも負けないで一途に働こうとしている姿が、氷室は嫌いではなかっ た。
 
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