テンポラリーラブ物語
 働く会社は一緒でも場所が違う。

 距離的にすればそんなに遠くないのに、毎日顔を合わせられない。

 氷室はどうすることもできず、自分の椅子にどしりと腰を下ろして、仕事に取り掛かった。

 コンピューター画面を睨みながら、キーボードを叩く指先に力が入っていた。

 なゆみもショックが強く、気持ちが沈んでいた。

「サイトちゃん、向こうにいっちゃうのか。寂しくなるな」

 ミナが側に寄ってきて残念がった。

「でも時々何かあるときは誘って下さいね」

「うん、絶対誘う」

 なゆみは控え室に入って自分の荷物を持ち出した。

 このロッカーももう使う事はない。

 ラックから自分のタイムカードを取り出せば、氷室のカードも視界に入り込んだ。

 これからは氷室と会えなくなる。

 折角慣れてきたところで、それを断ち切られるように思え、寂しさがこみ上げた。

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