テンポラリーラブ物語
10
 支店での仕事は、本店と比べて動き回る範囲が少なく、業務については楽に思えてしまった。

 仕事に慣れて緊張感が解けたのが一番大きい。

 時々、客足がひっきりなしに続くこともあるが、そういうときほど時間が経つのも早かった。

 だがなゆみは寂しかった。

 そんな気持ちを持っていても、なぜそう思うのか原因を考えることまではしなかった。


 季節は早くも梅雨になる頃だった。

 この職場に雇われてから、あっという間に月日が経っていく。

 氷室とは移動以来、顔も合わすことが全くなくなり、時々電話で話すことがあっても、仕事の連絡や商品の確認などビジネス範囲内でのことだった。

 たまに氷室は「頑張ってるか」と遠慮がちに様子を気にしてくれるが、なゆみは「はい」としか答えを返せない。

 声を聞いているうちはまだいいが、その後、電話を切れば、虚しさが広がる。

 この先もずっとこのまま時間が流れて、会えないままで終わるのだろうか。

 そんなことを思っていると、チャンスが舞い降りた。

「斉藤、悪いが、この商品を本店に届けてくれないか」

 川野に言付けを頼まれ、なゆみは久しぶりに本店に行けることを喜んだ。

「はい!」

 思わず返事が弾んでいた。

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