テンポラリーラブ物語
 暫く見ないだけで、本店はすでに違う場所に見えてしまった。

 知らない人がまた数人増えている。

 その中で、氷室と話をしている新しいアルバイトの女の子を見てしまった。

 あのポジションにはいつも自分がいたのにと思うと、なんだか胸がきゅんと締め付けられてしまった。

「お疲れ様です」

「あっ、サイトちゃん。久しぶり」

 ミナが喜んでくれる。

 あまりよく知らない新しいアルバイトの人たちは、なゆみが現れても無視だった。

 氷室をちらりと見ると、目が合った。

 氷室はあごを一振りするように、ぞんざいな挨拶をしてくれた。

 それでも嬉しく、なゆみはにっこりと微笑んだ。

 言付かった商品をミナに渡すと、それであっさりと用事は済んでしまった。

 氷室はアルバイトの女の子と話をしているところで、声を掛けられる状態じゃなかった。

 未練が残るが、すぐさま本店を後にした。

 ほんの一瞬だけでも、氷室を見た時胸がドキッとしたものの、今は胸騒ぎでチクッとしていた。

 傍にいた女の子がとても美人で、氷室と並んでいると釣り合って見えたのがショックだった。

 なゆみは複雑な感情をかかえると、見なければよかったかもと、浮足立っていた。
 
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