テンポラリーラブ物語
「氷室さん?」

 アルバイトの女の子に声を掛けられて、氷室ははっとした。

 なゆみの後姿を目で追っていて意識ここにあらずの状態だった。

 気を取り直すが、急にやる気を失うと何を話していたかすっかり忘れていた。

 もう用はないと、アルバイトの女の子を放っておいて、デスクに戻り座り込む。
 
 その直後に誰からも話しかけて欲しくないオーラを体から出していた。

 仕事をする気にもなれない。

 しかしそんなときに限って用事が急に入り、氷室はかなり離れた支店に呼び出されてしまった。

「今日は残業か」

 折角会えたというのに、こうも中途半端になゆみの顔を見ただけでは、よけいに気持ちがくすぶって不完全燃焼だった。
 

 その日、なゆみは仕事が終わるといつものように英会話学校へ向かった。

 ジンジャを見なくなってから随分と経っていたため、会う事がないと決め付けていたので少しは気が楽になっていた。

 授業が始まる前、ラウンジで一人ぼっーと座っていると、後ろから頭をこつんと軽く叩かれた。

 なゆみが振り返ったとき、そこにはジンジャが立っていた。

「よっ、タフク。久しぶりだな」

「ジンジャ!」
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