テンポラリーラブ物語
「嘘言えっ! あっ、もしかしたらジンジャと会ったんだろ。最近本店で時々見かけたぞ。なんだかお前のこと探してた感じがした」

 なゆみから小さな吐息が漏れた。

「やっぱり、氷室さんは洞察力がありますね。その通りです。彼、就職の内定を貰ったって報告に来ました。その後も何か話したそうにしてたんですけど、私の授業が始まって、それで彼は先に帰ってしまいました」

「ふーん、いつも煮え切らないね。で、お前はジンジャとどうしたいんだ?」

「えっ、別にそんな、どうしたいとかって言われても」

「好きなんじゃなかったのか」

 氷室はさりげなくなゆみの心境を探っている。

「だけど、ジンジャには彼女がいるし」

「お前、本当に彼の口から聞いて確かめたのか? 自分でそう思い込んでるだけかもしれないじゃないか」

 もしもの対応にも備えて違う角度からも伺ってみるが、氷室の唇が尖がって声が上擦っていた。

 なゆみはじっと前を見据えて黙ってしまったが、突然氷室に振り返った。

「氷室さん」

「なんだよ。急に」

「私、わからなくなりました」

「何が」

「だからほんとにジンジャのこと好きなのかなって。なんていうんだろう。恋してるとき、すごく楽しかったんです。今日はレッスンに来るかなとか、クラスで思いっきり一緒に笑ったとか、声を掛けてくれたとか、そんなちょっとしたことでもうきうきできることが嬉しかった。ジンジャはそれに合わせてくれて、てっきり特別な関係だって思い込んでしまって、そして益々気持ちはエスカレートしていった。でも……」

「でも?」

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