テンポラリーラブ物語
「少し距離ができたとき、ジンジャと学校で会わなくなったんです。ジンジャが避けてたのかどうか分かりませんが、私も8月末にはあの学校終えるんです。そうするともうジンジャに会える機会がなくなっちゃう。そして私はアメリカに一年留学するし、そしたらもうそれまでなんだって急に夢から覚めたような気持ちになりました」

「だから、何がいいたいいんだ?」

「なんていうんだろうこういうの。英語にするとテンポラリーラブ……」

「テンポラリーラブ?」

「仮の恋っていう意味。そのときだけ盛り上がって、勝手に好きになって、そして時期が来たら忘れていく。私も雰囲気にすごく酔っていたかも」

「面白いこというんだな。テンポラリーラブか。それって、本気の恋には繋がらないのか」

「本気の恋? それだとトゥルーラブって訳すのかな」

「それは真実の恋と訳してしまうから、本気の恋はアーネストラブ、またはシリアスラブの方がしっくりくるかな」

「氷室さん、もしかして英語得意?」

「得意というのか、多少はできる。これでも学生の頃は勉強頑張ったからね」

「それじゃ、今からもまたやり直せばいいのに…… あっ、ごめんなさい」

 つい、口が滑ってしまって、氷室が怒り出さないか恐れてしまった。

「そうだな。そろそろやり直してもいい頃かもな。俺もお前の言葉を借りるなら、今はテンポラリージョブだな。仮の仕事」

「氷室さん、なんか変なものでも食べた?」

 なゆみは素直に受け答えする氷室にびっくりしてしまう。

 氷室の顔を瞬きしながら見つめると、暗闇の中でも薄っすらとした光を受けて氷室の瞳が黒くつややかに光っていた。

 それはまろやかな優しい目に見えた。

「はっ? なんだよそれ。でも、変なものには出会ったかもしれない」

「ん? 変なものに出会った?」

 氷室はおぼろげな月を見上げた。

 それにつられてなゆみも一緒になって見上げてしまった。
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