テンポラリーラブ物語
 氷室さんの馬鹿!

 なゆみは抑えきれない気持ちで、足に力をいれてどしどし闊歩していた。

 だが次第に勢いはなくなり、とぼとぼに変わっていった。

 複雑に絡み合った感情のせいで、完全に迷い込んでいた。

 それは、氷室の声が耳に届いた時、自分が一瞬でも本気に受け止めてしまったからだった。

 それだけなゆみの心の中に氷室の存在が大きくなっていた。

 あのままキスをされてもいいとまで思った時、ふとジンジャのことが頭によぎってしまった。

 それにはっとすると、反射的に氷室を突き飛ばしていた。

 ジンジャが好きだったはずなのに、氷室と接する機会が増えるとそっちに傾きかける。

 まさにふらふらしている。

 それが許せず、自分の中のプライドが急に目覚めてしまった。

 その場限りを浮遊するふらふらした気持ち。

 それこそテンポラリーという言葉に当てはまり、自分が恋に恋して酔っている状態はもうごめんだった。

 しかし、うまく口に出せない思いに胸が詰まってすごく重苦しかった。
 
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