テンポラリーラブ物語
 次の日、梅雨にふさわしい天気となり、ザーザーと突き刺すように雨が振ってるのが店の中からもよく見えた。

 それもまたこの時の自分の心の中を見ているようだった。

 雨はどんどん降り注ぐ。

 店は外に面していたが、ビルの奥に引っ込んでいるため、雨が降りこんでくることはなかった。

 しかし、どんよりとした灰色の世界とべちゃっとした湿気が混ざって、そこに川野のネチネチさが加わるとかなり不快感は増した。

 さらに追い討ちをかけるように、川野は何かとなゆみに触れてくる。

 それも中途半端に幽霊が肩に手を乗せるような気持ち悪さがあった。

 一番嫌な触れ方は人差し指で背中にすーっと線を引かれることだった。

 中学にあがったばかりの頃、男子生徒がそろそろ女生徒がブラジャーをしているのか、セーラー服の上から後ろのフックを確かめようと触られた時の事を思い出した。

 気持ち悪い。

 それでも川野はニヤニヤした笑いを浮かべて、ヘラヘラとしては何も悪いと思っていない。

 それがセクハラまがいな事であるのに、なゆみはただ耐えていた。

 千恵が休憩を取っているとき、川野と二人っきりになると、口癖のように言われる言葉があった。

「斉藤、ホテル行こ」

 冗談にも程があった。

 川野は妻と娘が二人居る。

 それなのに何を言うのだと、冗談として交わしていたが、最近それが冗談に聞こえなくなってきた。

「嫌です」

「ありえません」

「奥さんとどうぞ」

 そう言い返しても、あのにやけた顔つきでへへへと笑うだけで効果は全くなかった。

 完璧にこれはセクハラだった。

 それでもやっぱり耐えてしまう。

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