テンポラリーラブ物語
 店は人の波が押し寄せるときと引くときがあり、暇なときはショーケースについた指紋をふき取ったり、商品をきれいに並び替えたりとこまごました作業をする。

 そんな時にはおしゃべりも交えて、仕事の間のほっとする時間にもなっている。

 やはりミナと紀子は新しく入ったなゆみの事について少し話し出した。

 氷室が居ることもあり、おおぴろげな話し方ではなかったが、どこか心配するようであり、自分たちと合わないんじゃないかとなゆみが苦手だとも取れるような発言をする。

 それみたことか。

 氷室は自分の思った通りの筋書きになり、半ば自分の洞察力に感心していた。

 不意に立ち上がり、彼女たちの側を通ると、何気ない顔でその話に加わってみた。

「新しく入った斉藤さん、どんな感じだい」

 ショーケースの商品を確認するそぶりをして軽く聞いてみる。

 ミナは本心をさらけ出すタイプではないので、用心した話し方を返してくる。

「まだ入ったばかりで分かりませんが、今までに居ないタイプですし、少し心配かもしれませんね」

 側で紀子が、相槌を打つように首を縦に振っていた。

「最初は必ず失敗するし、仕事覚えて貰うまで説明が面倒臭いけど、上野原さんあまりいじめないでやってくれよ」

「いやですよ、氷室さん。私そんなことしません。それより氷室さんも最初は労わってやって下さいね。いつもの調子だと絶対怖がりますよ」

 ミナだけは古株ということもあり、氷室に一歩突き進んだ言い方ができた。

 氷室もまた、女子従業員には煙たがられる存在なのである。

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