テンポラリーラブ物語
 見かけはそう悪くない。

 年は30過ぎていてもまだ20代後半程度に見られる。

 スーツを着こなし、背も高く、きりりとした整った顔なのに、まず愛想がない。

 自分主義のきつい言い方をするせいで、外見よりも中身の悪さが先に出ていた。

 そして何より専務である純貴の友達で、なあなあな関係と思われて触らぬ神にたたりなしという位置づけだった。

 何かあれば専務に言いつけると思われ、恐れられる嫌な主任とされていた。

 氷室は鼻でふっと笑いながら、その場を後にしたが、結構ミナの言葉には気分を害していた。

 氷室はここで働く女子社員と関わりたくない事からわざとそういう態度を取っていたが、実際は自分でもここで働いている誰よりもレベルが上だと思っていた。

 そういうことを思って働いている以上、知らずと見下しているのだろう。

 やはりいいように思われないのは仕方のないことだった。

 なゆみが加わったことで、これからどのようになっていくのか見ものだと、高みの見物を決め込むように冷たい微笑を片一方の口角に乗せて上げてみる。

 それにしてもくだらない毎日だと、椅子にどっしりと腰を下ろしてデスクワークに励んだ。

 そして電話が鳴ると、一度目のベルが鳴り終わらないですばやくとる。

「はい、トレードチケットセンターです」

「あっ、コトヤン? 俺、純貴。今日は支店周りしてるのでそっちにいくのはかなり遅くなるから、適当にやっててね」

「はい。かしこまりました」

「おいおい、ビジネスとは言え、お前も結構律儀だね。電話くらいいつもの調子でいいのに。ところで、新しく入った子、来た? 親父が勝手に雇ったみたいだけど、どうせ俺好みじゃない子でしょ。まあ短期らしいからいいけど、今度はまたかわいい子入れないと、つまんないね。今度はコトヤンの好みの子でも雇ってみるよ。お前もいい年なんだから彼女の一人くらい欲しいだろ」

「純貴いい加減にしろよ。よけいなお世話だ」

「おっ、専務に向かって口答えか。ハハハ、とにかくあと頼むよ」

 いつかバチでも当たるぞというより、当たれと願いを込めて受話器を強く置いた。

 気を静めるために、またデスクワークに専念する。

 キーボードに伝票の情報を打ち込み、どれだけの売り上げがあるか常にチェックしていた。

 本当に簡単な作業だった。

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